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花カゴの写真

小児科医 中村弓美の部屋

小児科医 中村弓美のエッセイ・雑記

パッヘルベルの調べのように

「私は何故生きているのだろう、私の人生には何の価値があるのだろう」−何度、自問したことだろうか。 答えを導き出せずに得た結論は、「意味を問うことをやめよう」ということだった。

けれど、自分がどこを目指して歩いているのかわからず、不安になることも少なくない。 そんなとき、夫は「老いて死ぬ。その時が人生の頂上。その時を目指して、人生という山を登るんだ。」と言ってくれた。

五線譜

私は、パッヘルベルのカノンが好きだ。 「パッヘルベル」は作曲者の名前、「カノン」は曲の形式を表す言葉。 バロック時代のオルガン奏者だったパッヘルベル。 その当時、音楽の特徴として、同時に複数のメロデイを演奏したことが挙げられる。 そこには新しいハーモニーが生まれる。

単調なメロデイが何度も何度も繰り返され、最後まで続く。 そこへ、新たに重なる別のメロデイもまた、同じコードに乗って変化する。 単調な寂しい曲の始まりが、伸びやかに軽やかに変わる。 高い音が多くなるにつれ、聴く側の感情も高まる。 そして、最後には、大きな希望の歌に。

音符一つ一つに、意味は無い。 しかし、それらがつながると、美しいメロデイとなって、人を感動させる。 毎日の暮らしが一つの音符とすれば、その日々の繰り返しこそ、人生という音楽。 たとえ今日一日に意味を見いだせなくても、しっかり積み重ねていけば、いつか美しいハーモニーが聞けるはず。

山登りでは、頂上を目指して歩くとき、その一歩一歩を踏みしめること自体が喜びとなってくる。

私も、今日の一日を、大事に奏でよう。 いつの日にか、自分の歩いてきた道を俯瞰し、その日々が奏でてくれる音楽を聞くのを楽しみに。

(平成15年11月29日 熊本日日新聞 夕刊「今日の発言」掲載)

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