小児科医 中村弓美のエッセイ・雑記
子どもと共感できる体験を
子育ては難しい。 だって、掃除機やポットのように、ボタンひとつで同じ反応をしてくれるわけではないから。
私の4人の子どもたちも、離乳食の好みから、母親の私の一言に対する反応、受け取り方まで、各人各様。 やっぱり実際、それぞれだ。 もって生まれた遺伝子に加え、生まれた順番も作用するだろうし、親にしたって、その時々で変わっていくから。
自分は一人っ子だったし、身近に小さい子どももいなかったから、小児科医にはなったけど、子どもはミステリーそのもの。 頭で考えた育児をすべきか、自分の本能に従うべきか、絶えず振り子のように揺れた。
「子供を自分の思い通りにコントロールすることはできない。期待して待つだけ。」と、開き直るまで随分と時間を要した。 きっと「子供も機械のように操作できる」という錯覚にとらわれていたのだろう。
自分を取り巻く周囲が、自分を映す鏡だとすれば、子どもは親の姿を映し出す鏡かもしれない。 だとしたら、子育ては、親としての自分自身を育てることだと思う。
福岡の中学校の取り組みが、ちょっと面白い。 空き教室を利用して子育てサロンを開き、生徒らが乳幼児と触れあっているという。 中学生にも早くから子どものことを知ってもらおうという試み。 少子化が進む今、将来のより良い子育てにつながるのではないか。
家庭科の教科書で勉強するのは、機械のマニュアルを読むようなもので、実際の子育てには、とても通用しない。 子どもとじかに触れ合い、共感できる現場での経験こそ役に立つ。 職場体験のような形で、地域社会での育児体験ができないだろうか。
(平成15年11月8日 熊本日日新聞 夕刊「今日の発言」掲載)
